>>を見上げて交わした誓い<<

□第1話


■[20××年 3月20日]




「・・・熱い・・・熱い・・・」


「のどが渇いた・・・水を・・・」


コップに水を一杯注ぎ、持とうとするが手に力が入らず上手く持てない。


「・・・くそっ・・・早く、早く・・・!」


ガタンっ!


バシャっと音を立てて水がこぼれる。床には手から落ちて割れたコップと水が散乱する。


「・・・なんで、なんでだよ・・・」


怒りと苛立ちで台所をドスンと叩こうとするがそれさえも力が入らない。


「はっ・・・はははっ!あっはっはっは!」


ストンと座り込み、高笑いをし始める。


「・・・そうさ、俺の人生なんてこのコップや水たちと同じだ。床に落とすだけでいとも壊れて・・・水だってそうだ。このまま拭かなくてもいずれは消えてなくなる」


「・・・消えてなくなるぐらいなら自分から消えるさ」


コップの破片の大きなものを一つとり、首にあてる。

「さよなら、俺の人生」



『・・・メロ!・・・テクレ!!・・・っ!』



圭介「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

ガバッと布団から起き上がる。
体中汗でベットりで布団にも染み込むぐらいだ。

圭介「・・・またこの夢か・・・」


圭介「くそっ!寝るときぐらいゆっくり寝かせてくれよ・・・」


時計を手に取り時間を確認する。

圭介「・・・4時00分。まだ少し寝れそうだな」

外を見ると少し明るみがさしてきそうな感じではあったが、夜特有の静けさはある。

圭介「寝よ。いろいろ考えてもしかたないよな」

時計を元の場所に戻し、再び布団に入る。


圭介「ふぅ・・・」


ゴソゴソっ。


圭介「・・・・・・・・」


ゴソゴソっ。


圭介「・・・・・・・・」


ゴソゴソっ。


圭介「・・・・・・着替えよ」



■[3月21日 午前9時]
┗自室


恵子「圭介〜?そろそろ起きなさいよ〜」

下の階から母の声が聞こえる。

恵子「お父さんが話があるから降りてきなさいって〜」

・・・俺に話??改まってなんだろうか。
普段から勉強しろとかいい成績とれとか言わない父だし、仕事上最近はあまりコミュニケーションをとる機会も少なかったので面と向かって話をするのは久しぶりかもしれない。

ちなみに父の職業は医者だ。風見病院を若干25歳で設立後に今では日本で5本の指に入るといわれているほどの病院の院長。
「人は常に進化しなければならない。ってことで他の先生さんにいろいろ学んでくるよ」と言い残し日本各地の病院を周っていろんな技術を自分のものにしてくるほどの努力家な人だ。
そんな父を尊敬し、自分も医者を目指しているところだ。

・・・でも。


圭介「まぁ聞いてみるか。考えててもしかたないし」

布団から出てパジャマを着替える。

圭介「今日はどこも出かける予定ないし適当でいいか」

部屋着を取り出して手早く着替える。春休みの朝はこればかりでもう手馴れたものだ。

圭介「っと、シーツ洗わないとな。汗びっしょりだったし」

ベッドからシーツを外してリビングに行く途中で洗濯かごに放り込む。

そして、リビングのドアを開けて入ると父と母が4つある席の片側に並んで座っていて、もう片側に座れと言う事がわかった。こんなきちっとしたのは中学入試の面接以来だなと思いつつ、よっぽど大事な話なんだろうと察した。


両親の正面に座り、さきほどから気になってることを問う。

圭介「おはようございます。それで、話というのは??」

健二「おいおい、いつも言うけどそんな敬語で話さなくていいんだぞ?」

母も「そうよ、それにそんな肩に力を入れなくてもいいわよ」という。

圭介「・・・ごめん。学校がお堅い人ばっかりでつい大人に対しては敬語使っちゃうんだよな」

健二「まぁ、いい傾向だけどな。でもこれから世の中に出てそんな機会はいくらでも増える。だから家の中でぐらいダラっとすればいい」

圭介「話はこのこと??」

今更だな、っと思いつつ聞いていると父は首振り

健二「いや、こんなことはどうでも・・・よくはないけどもっと大事な話だ」

やっぱり大事な話なのか。頭の中で軽く思考をめぐらすが特に思いつく事項はない。悪いことをしたわけでもなければ特に褒められることもしていないし・・・。

健二「圭介実はな」

一転して真剣な顔つきになる。こちらも次の発言に対して身構えてしまう。



健二「・・・医者、ならなくていいぞ」

圭介「・・・は?」

健二「お前は故郷の島に帰って自分のやりたい事を探して夢を追いかけろ。いや、もちろん強制はしない。お前が医者を目指すと言うなら止めない。どうだ?」

圭介「えっ、ちょっちょっとまってくれよ!いくらなんでも急すぎないか??」

健二「すまん、医者を目指せと言っておいて本当に申し訳ないと思っている」

本当に申し訳なさそうに謝る父。
とりあえず心を落ち着ける。頭の中で今起こってることを整理して自分なりに解釈する。

要は、ずっと親を目指してがんばってきた医者の夢を捨てて故郷で暮らし、自分のやりたいことを見つけて暮らせということだ。

がんばったといえどもまだ中学生。今なら確かに他の夢を目指すには十分すぎるほどの年月はある。

圭介「・・・ちょっと考える時間もらってもいい?」

健二「もちろんだ。今すぐ答えを出せるほど簡単な問題じゃないしな」

恵子「ゆっくりでいいのよ?あなたの今後を左右することだし、相談ならいつでもしてくれていいから」

っと、優しい言葉をかけてくれる両親。

圭介「うん、ありがとう。でも一人で答えを出すよ。自分の将来は自分で決めないとね」

席を立って自分の部屋に戻る。



リビングのドアは閉まり、部屋に静寂が戻る。

恵子「・・・これでよかったんですよね?」

健二「よかったもなにもこうするしかなかったさ。それに・・・」


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